2011/03/28

我が内なるアルカトラズ

 
 昨夜、友達の紹介で、ある本の著者と東京でお会いした。酒を飲みながら、いくつかの有益なアドバイスをいただいた。
 超有意義な飲み会を終え、いい気分で安ホテルに1人戻る途中、襲われたのである。
 大腸に潜伏していた、我が内なる暴漢たちであった。たっぷりの水分を武器に奇襲をかけてきたのである。

 下っ腹で何かがギューとよじれたのが、彼らの宣戦布告だった。実際に音が「キュウ」と鳴った気がしたがよく覚えていない。
 彼らの目的は、脱獄だ。アルカトラズ島からの脱出である。迎え撃つ側としては、封じ込めが至上命題である。ロックアウトされたキャンパスというか、鎖国というか、呼び方にはこだわらない。

 あわててはならぬ。乱時ほどそうだ。
 見事な急襲により、例えるならまずは牢屋のカギが壊されたようだが、まだ廊下を制圧されたわけではない。そして、その先にある建物の出入り口には達していない。仮に建物を突破したとしても、娑婆(しゃば)への出口には門兵が控えているのである。そこに至るまでには若干の時間があろう。
 宣戦布告を受けた場所はJR駅で、ホテルはここから徒歩約10分。微妙だが、おそらく間に合う。いや、間に合わせなければならないのである。

 落ち着いて腹の中のよじれをなだめつつ、歩いた。ところが2分ほどで、腸内で手榴弾が炸裂した。いま体を動かすとダメージが広がり、一気に門まで詰め寄られかねない。
 足を前に出せない。止まるしかない。
 手榴弾は次々に投げ込まれる。酔っぱらってテンションが上がっていることもあり、「おおおおおおっ」と声を出した。負けないぞ、という意思表示でもある。

 道行く人がこっちを振り返ったようにも思えたのだが、よく覚えていない。
 あっけなく廊下が制圧されたことを理解した。残された時間は思ったより短い。

 と、ここで、すっと彼らの攻撃が止んだ。
 チャンスである。足早にホテルに向かう。
 意外なほど、そこからしばらく小康状態が続いたのである。ホテルとの距離は順調に縮まっていく。もうすぐだ。この様子なら大丈夫そう。余裕を見せつけてコンビニに寄ってやろうか。と、コンビニの扉に手をかけた瞬間であった。

 ヒュー、という短い音が腹の中で鳴り、腸内で大規模土砂崩れが起こった。目の前が白くなった。ぴたりと手を止めた。「んんんんんんんんんっ」とうなった。
 例えるなら、建物を出入り口も含めて攻略され、暴漢が大挙して敷地内に飛び出してきた感じだ。非常警報がけたたましく鳴り、我が門を守る、門兵に緊張感が走る。

 実際に数人が門兵に殴りかかってきた。門兵は痛みに耐えて固く門を閉めている。もはや最後の砦である。

 暴漢も態勢を整えようと思ったのか、少し攻撃の手をゆるめた。
 今を逃すと最悪の事態が起こる。ほとんど小走りで、ホテルに駆け込んだ。

 脂汗を流しながら部屋の前までたどりつき、カギを開けようとしたとき、暴漢が総攻撃に入った。全員固まって、娑婆への門に突撃してきたのである。門を支えながら苦悶する門兵。それはまさに最終決戦、クライマックスであった。

 カチャッという音とともに部屋のドアを開け、すぐさまトイレに座りこんだ。そして門兵に撤退を命じた。

 滝。

 その音は、暴漢の勝利宣言にも聞こえた。
 たっぷり3分ほどかけて、暴漢は娑婆に出た。

 しかし彼らに娑婆の空気を味わう時間はほとんどなかった。数秒後、一瞬で下水管に追いやられたからである。
 まったく戦いとは、非情なものである。
 

1 comment:

  1. すいません、私との極寒での作戦会議が長すぎてお腹が冷えてしまったようですね。失礼いたしました。

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